経済学部の正門の近くの外堀に面して、瀟洒な和風建築の教会堂が佇んでいる。これは昭和6年に、日本聖公会彦根聖愛教会のアメリカ人牧師P.A.スミス氏が、両親の記念と日本へのキリスト教の一層の普及を願って建設したものである。日本人に親しみが持てるようにと寺院建築を模し、外観は礼拝のための向拝の付いた瓦葺きの御堂そのままである。かつては十字架が屋根にそびえ、正面の戸や梁、釘隠しや瓦等には十字架に葡萄の文様が施されており、建築史上も貴重な文化財である。玄関の角柱の下には、日本聖公会の二母教会であるロンドン・ウエストミンスター寺院とアメリカ・イリノイのルカ教会堂より贈られた石が据えられており、スミス牧師のこの教会への思い入れの深さが偲ばれる。
さらに歴史を遡ると彦根には明治10年代に設立された彦根キリスト教会があり、明治末期以降説教や講演にしばしば来彦したW・M・ヴォーリズや同20年頃に教会新築や洪水救済にも尽力した彦中の英語教師H・シャープ等の顔が浮かんでくる。英人シャープ氏に連れられていた幼い孫は、帰国後彦根の思い出を胸に小泉八雲の著作を繙いて日本への思いを強め、再び来日して陶芸家となり、柳宗悦らと共に民藝運動を担っていた、かのバーナード・リーチであった。この和風教会は近江を舞台に日本と欧米の相互交流に尽力した外国人達の軌跡を彷佛とさせるが、今やその運命は道路拡幅工事前に風前の灯火であり、風雨に晒されて朽ち果てるままに放置されている。何とか保存が図られたいものである。
(経済学部助教授 筒井正夫) |